空が痛いくらい叫んでる。
何が悲しいのかなんて分からないのに、
ずっとずっとわたしと同じで叫んでいた。
大きな音と、とても目を開けていられないような閃光。
まるで死の呪文のようだと思ったと言ったなら、
きっと不謹慎だと怒られてしまうのだろう。
けれどわたしにとって、
それ程までに雷というものは一大事なのだから仕様が無い。






世界でいちばん幸せな夜






「ひゃっ!!!」

 出来うる限り確りとベッドのカーテンをきっちり閉め切って、 それでも満足いかずに掛け布団を被って丸くなっていた。 お陰で目の焼けるような閃光は迫っては来ないけれど、天地を引っくり返さんばかりの轟音だけは響き渡っていた。
 何度目かの轟音と、その影響でガタガタと音を立てた窓。もうなんだか頭の中がどうしようもなく混乱してきて、 空と一緒に叫んでいる自分が情けなく感じて涙が滲んだ。それでも頑なに丸くなるのは止められずに、 隣のベッドでわたしの叫び声を迷惑がっているであろうリリーに心の中で謝罪を述べた。
 不図、雷の音どころか、打ち付ける雨音まで消えてしまったことに気付いた。けれどやっぱり布団から出る勇気が出ずに、 息を凝らしてあたりを伺っていると、カーテンが引かれる音がした。

「ははっ!」

 笑い声。きっと、もう我慢が出来なくなったリリーが怒って起きてきたのだと思ったけれど、 その笑い声は思いのほか低い音。わけが分からないままに布団の中で固まっていると、勢いよく布団が持っていかれてしまった。

「大丈夫かい?」

 目に飛び込んで来たのはリリーの紅い髪の毛でも、きらきらと綺麗で鮮やかな緑色の瞳でもなかった。 鳶色の髪と、世界中探してもきっとこの一つしかないってくらい優しい笑顔。 でもその笑顔が何処と無く悪戯めいていた。

「あ…?リーマス?」

「うん。リリーがあまりにも可哀想だからどうにかしてって。」

「へ?」

 状況が把握しきれないわたしを他所に、リーマスはとても愉快そうにわたしのベッドに潜り込んできた。 無造作にわたしから剥ぎ取った布団を確りと掛け直して、この場に似ても似つかないような満足げな笑顔で、 さぁ寝ようか?、なんて言う。いい加減状況を把握した自分の顔に、段々と熱が上がっていくのを感じた。

「いや!ちょっと、リーマス!?」

「君も仮にも魔女なんだから、防音の魔法を使えばよかったんだよ?」

 彼はさも自慢げに、人差し指を立てるみたいにわたしの前に杖を見せ付ける。そのぐらいの狡も出来ないの? そんな風に馬鹿にされた気がして一瞬顔を歪めて、けれど直ぐに彼の調子に巻き込まれていく自分を正した。

「いや、違う!今話すべきはきっとそこじゃないよ!?」

「ほら、明日は合同授業の魔法薬学からだよ?スリザリンに負けないためにも早く寝ないと。」

「いや、寝不足でもリーマスよりは負けないし!」

 混乱する脳みそでも、彼と自分の魔法薬学においての成績くらいは分かった。確実にわたしの方がそこは勝る。 負けるとしたらスリザリンのセブルス・スネイプにくらいだけだと思う。

「ほら、怖いなら一緒に寝てあげるから。」

 さも当たり前のように、わたしの言い分は無視で会話を進めて、目を白黒させているわたしなんて全く気にする風でもなく、 自分の隣を小さく叩いてわたしに寝るよう促す。リーマスが考えてることが分からないなんて事はいつもの事。 だけれど今日ほど慌てふためいたことはあっただろうか。

「こ、ここ女子寮です。」

「うん。リリーは今頃僕のベッドを占領してるね。
ジェームズとは死んでも同じベッドで寝ないって言ってたから。」

「リリーっ!?」

 彼女はなんて事をしてくれたのだろうか。頭の混乱は全然整頓されないのに、妙に冷静な部分が生まれてくる。 ちょっとだけ考えて、はっとした顔をしたわたしをリーマスが怪訝そうに伺う。転がるリーマスの両肩を掴むと、 ちょっとどうしようもない体制になっているなんてこと気にならなかった。さっきまで紅かった顔も、今では結構青いんじゃないだろうか。

「ちょっと!駄目だよ!ジェームズなんかのいる部屋にリリー、と、泊まらせるなんて!!」

「それはちょっと我が友人が可哀想だなぁ。」

「いや、ちがっ、違くはないけど!?」

「とりあえず、ほら、落ち着いて?」

 三日月みたいに綺麗な笑顔でわたしを落ち着かせようとする彼。これが落ち着いていられる状況かを考えている自分は、 彼が言うよりは、あまりそうとも言えないが落ち着いているように感じた。 けれどきっと、目の前でわたしに押し倒されるような格好をしていることの男には劣る。確実に劣る。 この恐ろしいまでの余裕の笑みは、一体何処から出てきているのだろう。この笑顔が曇る日はあるのだろうか。

も同じ状況だよ?」

 リーマスから手を離して、頭を確り抱え込んでリリー奪還作戦を立てているわたしの肩に手が置かれた。 突拍子も無いスキンシップに吃驚して振り返れば、彼は呆れた笑顔。少し可愛いと思ったことは内緒にしようと思った。

「いや、のほうが幾分か危険じゃない?」

「え?」

「二人っきりって要因が加わるあたりで。」

 思いの他脳の方が反応が早くて、面白いくらい赤面してベッドから落ちかけるのを感じた。 それを慌てた様子のリーマスが支えて、必然的に抱き合う形。 会話が会話なだけに過剰反応してしまう自分が酷く幼稚に思えた。

「大丈夫?」

「全くもって無事です。」

 それこそ今の状況よりは、落っこちたほうが無事だったかも。 そんなことを思ったと言ったら、この優しい人は落ち込んでしまうだろうか。 彼が結構勇敢で、けれど泣き虫なのをわたしは知ってる。ずっとずっと見てきたんだから。

「リーマスってたまに恐ろしいくらい大胆でユーモラスよね。」

「僕はいつも素直なだけだよ?」

「自分で言いますか、それ・・・」

 少し呆れて、隣のベッドが空いてる事を伝えると、そんなことは知ってると言われてしまった。 この少年はいつの間にこんなにも余裕の有る人間に育ってしまったんだろう。 出逢った時のスタートラインは同じだったはずなのに。
 溜息をついたら想像以上に冷静になって、全部企てた確信犯たるリリーに完敗だと思った。 わたしの思いを知ってか知らずか、こんな大胆なセクハラをやってのけるこの少年は恐ろしいと思った。 そしてそんな彼は、わたしがどんなに頑張っても此処を動かないんだろう。

「はぁー・・・もう・・・」

 溜息を連続で大量について、息を思いっきり吐いてからわたしは横になった。 ホグワーツのベッドは二人で寝るには少し窮屈に感じた。リーマスに向けた背中に、彼が小さく寄り添って、 不図暖かい体温。雷の夜はいつも寝れないけれど、なんだか今日だけは眠れそうな気がした。

「仕様が無いから一緒に寝てあげる!」

 わたしが彼の方に寝返りを打てば、リーマスは世界で一番幸せそうな顔をして微笑んでいた。 あ、愛しいな。そんな風に感じたのは絶対に秘密にしようと思った。



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色々と捏造してるのは目を瞑ってください笑
ほんとは男子は女子寮は入れないらしいけど!!
そしてきっとリリーと二人部屋なんだよ!