わたしが好きになった人には、とても好きな人が居た。 どんなに望んだって勝てないような、完璧な少女が彼の想い人。 誰もが羨むような彼女に勝てるところと言ったら、わたしが生まれた時から魔法使いだってことくらい。彼女はマグル出だったから。 別にわたしが不細工なわけでも、魔法の能力が低いわけでも、頭が悪いわけでも、魅力的じゃないわけでもない。と、思う。

「セブはまた美少女見物ですかぁ?」

 ほんの少しからかうような声を作る。本当はいっそ泣きたいくらい悲しい声が出そうだったけれど、 それをしたら本当に彼女に負けてしまう気がした。だからいつだってわたしは気取った声で彼に話しかけたし、少しからかうような態度を取った。 それがどれだけ彼から嫌われることになるのかは分かっていたけれど、そうする他にわたしはわたしの威厳を保つすべを知らなかった。
 スリザリンに生まれて、スリザリンで生きてきた。どうやったって、彼女のようにふるまう事は出来ない。 彼女がわたしだったら、きっと彼にこんな風な態度を取ったりしないんだろう。 彼女だったら、きっともっとうまくやる。きっと彼が見詰めている先に他の女の子が居たって、 彼女は自分の方へと振り向かせてしまうんだろう。

「構うな。」

 冷ややかな声だけで、彼は振り返る事さえしなかった。わたしと彼の関係なんてそんなもの。 良くて友人。悪くて…なんだろう。他人かな。

「ね、彼女、可愛いわね。」

 まるでなんてことは無い世間話をするみたいに、彼の隣に並んで彼女を褒める。事実可愛いと思った。

「ああ。」

 でもまさか彼の口から肯定の言葉を聞くとは思わなかった。どうしたらいいのか分からない程詰る息と、 彼がほんの少しだけわたしの存在を許してくれているような曖昧な感覚に殺されてしまいそうだった。 心臓に心はないって、マグルがそんなことを言っていたけれど、あれは嘘ね。だって心臓が握りつぶされそうだもの。

「彼女のこと、好き?」

「関係ないだろう。」

「彼女のこといつも見てるもの、好きなのよね。」

 彼は何も言わない。溜息を一つ漏らしただけ。
 好きなんでしょう?誰よりも。知ってるわよ。ずっと、ずっと、貴方を見てたから。 できっと貴方は分かってくれない。注意深い貴方が彼女を見ていることに気付いてしまうほど、何故わたしが貴方を見ていたのか。 そんなことどうでもいいだろうから。
 彼にとってはばれたことだけが厄介事。 同じスリザリンのわたしに、グリフィンドールの女の子、しかも自分と犬猿の仲にある少年に愛される女の子を見ていることがばれてしまったこと。 それだけが彼の稀有することで、彼にとってわたしっていう個人はどうってことない。

「セブ、わたし、あなたのお友達よね?」

 きっと彼はうなずくことは無いだろう。真っ直ぐに向けた視線をわたしに向けてくれることは無いだろう。
 女ってすごいのよ。貴方が一生彼女を愛するんだって分かるの。分かっちゃうのよ。
 …違うわね。女が凄いんじゃないわ。

「セブ、わたし、ずっとセブと一緒に居るわ。お友達ですもの。」

「馬鹿か。」

「そうね、馬鹿かも。でも良いお友達でしょう?」

 声を震わせないように、精一杯嘘つきになった。
 貴方が彼女を一生愛するように、きっとわたしも貴方を一生愛するの。だから分かるよ。仕様がないのよね。

 愛した人が遠すぎただけ。その愛が深すぎて、それでいて掴みどころがなさ過ぎて、永遠に手に入らなくて…だから手放せない。
 もっとずっと近くに居られたら、きっと嫌いになることもできたかもしれないけれど、 付かず離れずだとそうもいかないものよね。それでいてわたしたちには勇気がないのよ。 グリフィンドールみたいに当たって砕けたって立ち直れない。所詮わたし達は狡いスリザリンだもの。賢いだけ。

「馬鹿には、僕みたいなやつが必要だろうから、お友達でいてやるよ。」

 彼の投げやりな言葉。どうしてかしら笑いが漏れた。幸せじゃない。でもきっと彼も幸せじゃない。
 けれど幸せよ。彼女を想うことしかできないけれど、きっと貴方もそうよね。 想っているだけでいい人間ってあんまり居ないのよ。でもわたし達、どうやら同族みたい。きっと永遠に友だちでいられるわ。
 わたしとっても貴方が好きなのよ。でも、きっと貴方もそれくらい彼女が好きなのよね。どうしようもないわ。分かるもの。
 でも、わたしは彼女と違って、貴方と同じ道を行けるわね。それくらいわたしに頂戴。 彼の愛は全部彼女に差し出すから。それで彼が幸せなら、わたしはそれを望むから。 彼女から彼を奪って、でもきっとわたしは彼女じゃないから彼を幸せにはできないの。 彼が幸せじゃなかったら、わたしも幸せじゃないわ。だから彼は彼女を想っていればいい。 わたしはこっそりベッドの上で防音魔法でも掛けて泣くわ。

、行くぞ。」

「ええ、行きましょう。」

 恋人にはなれないけれど、愛し合う事は無いけれど。お互いを信じて、背中を預け合えるわ。 闇に落ちても、最低の人生でも、何処までも一緒に行きましょう。



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