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それから沢山の事があった。セブルスとは多くの魔法薬を一緒に作り上げたし、元々理論の方は不得意では無かったわたしは、いつしかセブルスと一緒に新しい薬の開発までするようになっていた。勿論彼のおかげで実技の方も大分上手くやれるようになって、卒業まで魔法薬学を続けることが出来た。
悪戯仕掛け人達とはまぁまぁ上手く付き合って、会えば会話をするし、悪戯をしかけられたら仕返しをしたりもした。ジェームズが紹介してくれたリリーとも話をするようになった。最初は新しい女の子の友達が出来たと喜んでみたけれど、後にセブルスの想い人が彼女なのだということを知って、彼女を見るたびに苦しく成るのが辛くて少し距離を置いたりもした。けれど結局、彼女はとても素敵な女の子で、わたしはセブルスへの想いを彼女へ話して、彼女との仲を深めた。
あの図書館での二人だけの時間の後は、ああいった会話をしなかった。チャンスはいくらでもあったけれど、その度にまだ時ではないと感じた。背中の向こう側にそれぞれ違う世界を抱えて、わたしたちは同じ時間を共にすることで沢山の思い出を作り上げた。セブルスとは何度かホグズミートへ行ったりもした。わたしとサラはデートと言っているけれど、彼はそれを知らない。
「今日で終わりだね、サラ。」
そっと笑い掛けるとサラがわたしの肩を抱いた。
「うん。終わりだね。」
後に分かったことは、サラもまた向こう側へ行ってしまう人だということだった。彼女の家は例のあの人に屈したそうだ。純血の割と良い家だということは知っていた。だからいつかこうなるかもしれないと思っていた、と彼女が呟いた声が忘れられない程震えていた。
「××」
この数年で聞き慣れてしまった声に呼ばれた。振り返ると漆黒の髪を風になびかせて、セブルスが微笑んでいた。お別れの言葉を言いに来たのだろう。そういう顔をしていた。なにもかも諦めたような、あの目。でも深く覗けばそこには確かに灯る光がある。何も諦め切れていない彼が潜んでいる。だから、信じてみよう。
「いってらっしゃい。」
サラがわたしの背を押した。それを見ていたセブルスが差し出した手を取って、彼に導かれるままに付いて行く。彼とこの城を歩くのも、きっともうないだろう。数えきれる程しか握ったことのない彼の手を、ぎゅっと握った。すると彼も何も言わずに握る力を強めた。
歩いて、歩いて、辿り着いた先はいつもの教室。いつものように揃えられた道具。でもいつもと違うのは、わたしたちが魔法薬を作り上げることはもうないってこと。必ず会えると信じて、次の約束をすることもないということ。
「ここで初めて会ったのよね。」
そっと机を撫でると、あの日の事がよみがえってくる。そんなわたしを見て、セブルスが少し困った風に笑った。初対面の彼は、今思い出すと、確かにそんな顔をしたく成る態度だった。
「わたし、あの時からセブが好きなのよ。」
悪戯が上手くいった時のように微笑めば、セブルスもそっと笑い返してくれた。彼はきっとわたしの気持ちに気付いていると思っていた。やはりそうだったのだ。けれど彼が絶対にこの気持ちに返事をくれない事も分かっていた。だって、彼はお別れをする気だから。
でもきっと、そうやって返事の無いままに別れを選ぶなら、少なくともわたしは愛されているんでしょうね。リリーには敵わなくても、彼の中にわたしの居場所がちゃんとあるんだと感じた。彼からの想いが聞けなくても、わたしの中にはそれを確信させるだけの、彼がくれた沢山のものがある。共に過ごした時間も、話した言葉も、触れた温もりも。なにもかもがちゃんと揃っている。
「××…」
わたしを見詰めるセブルスの瞳が揺れた。ああ、また迷子のようね。口を何度も開きかけて、止める。彼はこの数年間、これを何度も繰り返した。
「セブルス、あのね、」
彼の代わりにわたしが声を出すと、彼の肩が一瞬揺れた。
この時がきたら、色々な事を彼に話そうと考えた。けれど頭の中が真っ白でどうしたらいいか分からない。何を一番伝えるべきなのか。何を彼に残したいのか。ぐるぐると考えて、浮かんだのはあの真っ赤に染まった図書館。
「出会った年に、図書館で話したことを覚えてる?」
「…ああ。」
「今も変わらないわ。」
セブルスの深い瞳と見詰め合う。わたしは目頭が熱くなるのを感じた。セブルスの頬に手を伸ばせば、彼も同じようにわたしの頬に触れた。温かい。とても、温かい。触れた頬も、触れてきた手も、血が通い、人を慈しむことを知っている。そっと彼の手にすり寄ると、彼もまたわたしの手に頬を押しつけた。
ああ、そうか。彼に伝えたいと思っていたことは、彼の気持ちがわたしに伝わったように、この数年で彼に全て伝えてしまったのだ。言葉にしたことも、しなかったことも、きっとセブルスの中に在る。彼の奥深くに居る彼が、確りと握りしめている。真っ白な頭の中に、彼と過ごした日々が流れていくのを感じて、そう思った。
「また一緒に魔法薬を作りましょう、ここで。」
「ここで?」
「そうよ、ここで。」
あの図書館の日のように、彼はそっと瞳を伏せた。そしてわたしはそんな彼から決して目を離さない。この先彼がどんなに非道な道を行くことになっても、彼と向き合う日には、きっと目を逸らしたりしない。わたしが目を逸らしているうちに、彼のその瞳がわたしを見失って、瞳の奥に灯る光をそっと消してしまわないように。
そうすれば、きっと…。
「また会いましょう、セブ。」
きっと、また会えるわ。信じてみたいの。あなたがあなたを失わなければ、と。だってあなたは約束を違えるたりする人じゃないもの。
わたしの言葉に、セブルスが視線を跳ね上げた。きっと彼が見たのは、あの日のわたしの笑顔と同じ、穏やかで、愛しくて、希望をのせた微笑み。
大丈夫よ。恐れるものなど何もないわ。
「待ってるわ。」
そっと背伸びをして、彼の冷えた唇にわたしのそれを寄せた。
セブルスの瞳から、透明な感情が溢れだしていた。
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