「街へ・・・」

 どれくらい沈黙していたのかは知らない。その沈黙に先に耐えられなくなったのはわたしだった。

「街へ出してくれれば、どうにかするわ。」

「どうにか?」

「そう、どうにか…」

 どうにか、って、なんて馬鹿らしい。この世界のことを何も知らないわたしがどうにかなるだろうか。

「無理だね。」

 この魔法使いはどうやら無慈悲らしい。 せめて、初対面で傍迷惑なわたしだけれど、他人だけれど、頑張れくらい言ってくれたっていいじゃないか。
 わたしは顔をあげる。ゆっくりと持ち上げた頭はなんて重たいんだろう。 無駄にこびり付いた笑顔でハウルを見詰めれば、 彼は酷く深刻そうで、くそ真面目な、わたしの知らない彼の顔をしていた。 もっとずっと感情のない冷たい目か、あるいは嘲笑を予測していたわたしは驚きで眼が開くのを感じた。

「無理だ。きみは何も知らないじゃないか。僕がハウルだって聞いたって、その噂だって知らないんだ。彼が悪魔だと言ったって驚きもしない。 の世界ではどうなのか知らないけど、悪魔はそうそう見る機会はないよ。」

「いや、わたしの世界なんて魔法さえないよ。」

 それに“魔法使いハウルの噂”も知っている。

「だったら、なに?目の前にあるものがぜーんぶこの世界の常識だと思った?」

 違う。そんなの違うのは知ってる。だってこの世界を知っているんだ。けれど言えない。

「でも、なんとかするしか、ないじゃない。夢じゃないみたいだし。なんか、帰れる気もしないんだもの。」

 言葉にしてみると、胸の奥が突き刺すように痛んだ。ここにきて初めて感情の波を感じる。 けれどそれをきつく奥歯を噛みしめることでやり過ごそうとした。



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