ハウルが溜息を吐く音が聞こえた。
カルシファーがそれに合わせるように小さく爆ぜた。
もう一度落としてしまっていた視線の先にあったハウルの足が動いた。
暖炉の前で止まって、カルシファーに薪を数本渡すと、彼はわたしに向きなおして顔を上げるように言う。
「とりあえず、この話はここまで。もう直ぐマルクルが起きてきてしまうからね。」
「え、ああ、はい。えーと、…」
「とりあえずあの中からフライパン探してきて。」
そう言って指さされた先を見て、わたしは愕然とする。はたしてフライパンは見つかるのかしら、と。
随分掛ってフライパンを探して、彼に言われるままにベーコンやら卵やらを運んで、
お皿っぽいものを探して…。そうしているうちにわたしはわたしの境遇なんてすっ飛んで、
さっきまでの妙に落ち着きはらった自分はどこかへ行ってしまった。
そんな自分に少し安堵して、次に何を言われるかとハウルを見ると、彼はそっと階段の方へ視線をやった。
その先には階段を下りてくる少年の姿。そして彼がわたしを見て立ち止ると同時に、わたしの肩はそっとハウルに引き寄せられた。
「おはよう、マルクル。彼女は。今日から家族だから。」
なんて小一時間まえの彼とは見間違えかねないほど柔らかく笑う彼がそこに居た。
かくして、自分に降りかかった事情の大半も、ハウルにとってわたしがどう映ったのかも、
彼の態度が急変して、どうしてわたしのことをここに住まわせることに決めたのかも分からないまま、
わたしは魔法使いハウルの動く城の“家族”になりました。
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