次の日の朝、わたしを見付けた悪戯仕掛け人たちが、ばつが悪そうに片手をあげた。どうやら挨拶をされたらしい。わたしは微笑むだけでそれに答えた。

「え?え?ちょっと、いつから彼らとお知り合い!?」

 サラが胸倉を掴む勢いで聞いてくる。返事を聞く気があるのかないのか、もっとお化粧ちゃんとしてくればよかったとか、髪型に拘っておけばよかっただとか…とりあえず色々と叫ぶように囁きながら、髪を手でなでつけていた。

「昨日一悶着ありまして。」

 応えてみたけれど、やっぱり聞いていなくて、声が掛けたい、などと言いながら期待を込めた目でわたしを見ていた。

「行ってくれば?」

「いや、が来てくれなきゃ無理。」

 じゃぁ諦めて。そう言ってレイブンクローの席を目指すわたしの後ろを、今度は恨みごとを言いながら追いかけてきた。



「あ。」

 食事をしていると、梟が手紙を持ってきた。白い柄の無い質素な便箋。宛名は無かった。裏に返すと“S.S”。わたしは封を切った。

「誰から?」

「セブルスよ。」

「なんだって?」

「“十分に気を付けて。”ですって。」

 とても短い。けれどこの人は本来とても優しい人なのだろと思った。
 わたしはスリザリンのテーブルに目をやる。彼と目があった。軽く笑うと、彼の口の端も少しだけ上がったように感じた。

「スネイプセンセイはどんなよ?」

 サラがさも興味なさそうなふりを装って、溜息までくっ付けて聞いてきた。わたしもそのお芝居に付き合うようにさも楽しそうに答えを紡ぎだした。

「そうね、とても素敵な目をしていたわ。」

「は?」

「あの人はきっと、とても優しい人よ、って言ったの。」

 サラがわたしを探るように見る。けれどそれを直ぐに止めて悪戯に微笑んだ。

「そっか。よかった、よかった。」

 彼女はそれっきりその話題を切り上げて、適当な世間話をころころと話題を変えながら続けた。



 食事を取り終わって、廊下へさ迷い出る。今日は一時間目の授業は無い。サラはそうではないので彼女は行ってしまった。
 どうしようか。庭に出るのもいいけれど、今日は少し天気が優れない。途中で雨に降られたらたまらない。

「あ、!」

 聞きなれないけれど、聞いたことのある声がわたしを呼びとめた。次の瞬間、セブルス以上に乱暴に腕を引かれてたたらを踏んだ。

「おはよう、ミスター ポッター。」

 丸眼鏡を視界にとらえて、続いて黒いくしゃくしゃの髪。視線を動かせばブラック、ルーピン、そしてペティグリュー。“十分に気を付けて”というセブルスの言葉を思い出す。けれど今日の彼らからは悪意はかけらも感じられない。そうやって人を騙すのなんて朝飯前なようにも思えて、わたしは懐の杖に手を伸ばした。

「あ。」

「おや、気付いてくれたかい?」

「ええ、大変。すっかり忘れていたわ。不自由したでしょう?」

 すっかり戦意は喪失して、ブラックに心配するような視線を向ければ、彼は困ったように視線を逸らした。
 杖を取ろうと懐に忍ばせた手が、二本のそれに触れた。わたしのものと、そして昨日奪ったブラックのものだ。

「ごめんなさい。あの時返さずに。」

 そう言って素直に彼に杖を差し出せば、彼はそれを驚いた顔と危うい手つきで受け取った。その様子を見てルーピンが忍び笑っているのがわたしからは見えたけれど、彼が内緒だと言うように口の前に指を添えた。わたしの視線が自分よりも後ろにあることに気が付いたブラックが振り返る頃には、彼はもういつもの顔を確りと貼り付けていた。

「用はそれだけよね?もう行っても?」

「いいって言いたいけどー」

「けど?」

「暇なんでしょ?」

「いいえ。」

「嘘だね。」

「これから予定ができるのよ。」

 わたしとポッターは笑い合っていた。会話が聞こえない距離にいた者なら、きっと談笑しているようにしか見えない。けれどわたし達の間に流れる空気は酷く剣呑としていた。視界の端に大広間の扉から滑り出てくる人影が映る。そして直ぐに声が届く。

「何をしている。」

 少しだけ息を乱したセブルスが、酷く怒った様子で彼らを見ていた。その声で4人全員が振り返ってわたしに背を向けた。

「王子様登場ってか?」

 ブラックの卑しい声が聞こえた。その声はわたしの神経を逆なでるには十分で、次の瞬間にはわたしはもう呪文を唱えていた。やっぱりただ単に杖を奪うだけ。セブルスに杖を向けたブラックと、ポッター。そして始めから杖を握りしめて登場したセブルスの杖。三本の杖がわたしの手に収まった。

「全く以て男って血の気が多くっていやね。これは一日没収よ。寮監の先生に預けておきますから。後日各自で取りに行く事!」

 にっこりと笑って言うと、全員の驚きの視線がわたしを捉えていた。ルーピンとペティグリューが我に返って笑いだすと、ちらほらと居た野次馬達が手を叩いた。
 わたしも少し可笑しくなって笑って、そのまま彼らを置いて歩き出す。目指すはマクゴナガル先生とスラグホーン先生のところ。

「き、君だって罰を受けることになるぞ!」

 ポッターが叫んだ。わたしは振り返ってさも愉快そうに笑う。

「加点して頂くわ!」

 最高にいい気分だった。
 杖を奪われた側であるというのに、眼があったセブルスが薄く笑って、降参とでも言いたげに両肩を上げたのが見えたから。
 そしてその後わたしは宣言通り5点ずつ加点して貰った。マクゴナガル先生に至っては“今後も期待していますよ!”と、きらきらと輝く眼をして言っていた。



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